日本高血圧学会は、高血圧に関する活動を行うことにより国民の健康を増進させるために1978年に設立されました。特定非営利活動法人として高血圧を中心とした以下のような活動を続けています。
・高血圧症ガイドラインの策定(高血圧の基準、予防、治療等について統一的な見解を示しています)
・学会誌その他出版物の発行
・学術集会及び研究会研修会等の開催
・高血圧及び関連分野の研究調査
・高血圧症の治療及び予防に関する最新の知識の普及啓発活動
・国内国外の関係学術団体との連絡
・国際的な研究協力活動の推進
・高血圧専門医に関する認定基準の策定
・食塩感受性高血圧対策となる減塩委員会の設立
・減塩サミット(毎年、日本各地で開催しています)
以上の他に、日本高血圧学会では世界最先端の研究の発表が行われたり、討論する場の提供もしています。
いろいろな研究団体が行っている研究活動の後ろ盾としての役割も果たしています。研究団体の運営活動に関する連絡や助言、援助活動等をしているのです。
ホームページでも、広く日本高血圧学会の最新の活動状況を公表しています。高血圧の予防や治療に関する最新のトピック等も発信も続けています。
高血圧だけではなく、動脈硬化やそれに関わる合併症状、あらゆる生活習慣病等の疾病についての情報も同様に発信しています。
今後は、薬のメカニズム等のもっと深く専門的な情報も取り込んでの発信も興味を湧かせるものとして試みる予定もあります。
高血圧学会の理事会
高血圧の薬であるバルサルタンについての論文不正問題では、高血圧学会内部から理事会に批判が噴出しました。
バルサルタンの販売会社であるノバルティスファーマ社の虚偽広告に理事会幹部の多くが参加していたというものです。
医学専門誌である「日本医事新報2013年11月16日号」に「日本高血圧学会の新生を願う–バルサルタン論文不正問題で失墜した信頼回復に向けて」との記事が掲載されたのです。
その声の主は、東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巖氏で、高血圧学会の元評議員、現在功労会員です。ですから、全く内部の人間ということになります。桑島氏は、厚生労働省の検討委員会の委員でもありました。
その場においてもノバルティスファーマ社の広告は、薬事法で禁じる誇大広告になるとの認識があり議論されたことを紹介しています。
虚偽広告によって、バルサルタンの処方に値しない患者に処方されている可能性も高いとしています。国民の健康を揺るがす事件に、高血圧学会の理事長、理事、その他ガイドライン作成委員等も加わっているというのです。
これは、高血圧学会全体としての責任が問われるものです。ノバルティスファーマ社は、不正なの臨床試験論文によりバルサルタンの優位性を強調してきたのです。
その根拠となった論文も否定する論文もあったのですが、高血圧学会はそれを無視して広告に同調したのです。
今後、理事会はいったん解散し、理事会の人選を改めて発足し直すとともに、再発防止策を構築することが求められています。
高血圧学会総会
高血圧学会は、年に一度、全国各地で3日間に渡る総会を開催しています。参加者も全国各地で高血圧治療に取り組んでいる大学病院の医師等で毎回2,000人を超える規模になっています。
また、提出される議題や講演等の数も600を超えるほどにもなります。
毎回、違ったテーマを決めてそれに沿った総会になるようにしています。2015年の場合は「今求められる高血圧治療と先端研究の融合」でした。
高血圧症の治療は、単に降圧させるだけでなく、いかに臓器に機能障害を与えないようにするかが大切なことです。
臓器に影響を与えるものは高血圧だけではありません。例えば糖尿病等も影響します。このような総合的な見地に立って、臨床研究のみならず先端研究をも融合させた治療が求められるということです。
3日間、会場の各所でこれに沿った盛りだくさんのプログラムが展開されました。
プログラムは、シンポジウム、ディベート、講演、共催セミナー、特別企画等に分けられます。シンポジウムを例に取っても、以下のように幅広いものです。
・震災時の高血圧対策:我々はどうすべきか-これまでの経験を踏まえて
・高血圧性臓器障害の源流を辿る-特に炎症と多臓器関連の観点から
・中枢性血圧調整機構のパラダイムシフト
・高血圧リスク評価における動脈硬化指標の役割
・地域における減塩活動の実際
・高血圧治療の最前線
・今こそ家庭血圧とABPMを診療に活かす
・治療抵抗性高血圧への対応
・高血圧を老化の観点から紐解く
・原発性アルドステロン症診療の問題点-ガイドラインと実地診療-
講演についても以下のように多岐に渡っています。
・運動療法の実施方法とその効果
・糖尿病を合併した高血圧治療:最前線
・閉経期女性における高血圧の特徴と管理
・高血圧緊急症の診かた考え方
・原発性アルドステロン症の最新治療~ラジオ波治療法~
・睡眠時無呼吸症候群と高血圧
高血圧学会専門医制度
日本人の死因の大部分を占めているのが、心筋梗塞、脳卒中等の循環器系の突然の障害によるものです。その潜在要因とされている高血圧患者は4,000万人にも及んでいます。高血圧の治療には、幅広く深く最新の知識も求められます。
このため日本高血圧学会では、高血圧についての専門医制度を設けています。高血圧の治療に総合的に優れた医師を専門医として認定することで、高血圧を取り巻く医療環境の向上を図るための制度なのです。
高血圧専門医となるためには、毎年行われる高血圧専門医の認定試験を受けて合格する必要があります。求められている高血圧専門医は、以下のようなことができる医師です。
1.一般の高血圧治療でも改善の見られない治療抵抗性高血圧患者についての治療に取り組みます。
循環器腎臓内分泌代謝脳卒中等のあらゆる症状の知識と豊富な経験により症状を原因から改善します。
2.高血圧患者の約1割を占める二次性高血圧の治療を適切に行います。
3.自覚症状のない高血圧の発症を予防するための啓発活動を行います。
4.国民の血圧を適正なものにするための意見やそのための情報等を発信します。
5.高血圧専門医として、制度の研修カリキュラムを受けます。
専門医に認定された後も、その知識、技能の研鑚を続けます。
高血圧は、患者はもちろん各病院でも自治体でも国においてもその予防治療に取り組んではいます。
ですがあまりに奥深いためか、対応には限界も感じられています。今後、進展する高齢化社会も踏まえて、高血圧専門医の存在は心強いものになっていくことでしょう。
高血圧学会の塩分摂取量目標
日本高血圧学会では、塩分摂取量の目標を1日6g未満としています。これは日本人の塩分摂取量の現状は、1日11g前後ですからこれを踏まえた現実的な数値なのです。
ただ、地域差も大きく男女差、個人差もかなりあるものではあります。多い人では、1日15g以上摂っている人もいるということになります。
欧米諸国では、1日3.8g前後が目標になっています。本当はこれくらい下げたいところなのですが、塩分の多い和食に慣れ親しんだ日本人の味覚は急に変えられないというところです。
減塩に取り組んでも長い間の内にいつのまにか以前の塩分摂取量に戻ってしまうというのが、一般的にありがちなのです。
それでも、多くの臨床結果に基づいた数値ですので、一定の効果のある目標値にはなっています。
各種の臨床データから集計した結果、非常に大雑把な見解としては塩分摂取量を1日1g減らせれば、血圧は1㎜Hg下がるともいわれています。
塩分を摂り過ぎると高血圧になって心臓や血管に障害を起こすことの他に、直接的にも障害を起こすことも分かっています。
このように減塩が大切なことは分かっていても、目標値を実現するのは難しいところでもあります。2015年からこの塩分摂取量目標を実現させるような方針になったところです。
このためには、いろいろなアプローチが必要になります。効果のあるアプローチをするために、日本高血圧学会は減塩ワーキンググループを2005年に発足させました。主な活動内容は、以下の通りです。
1.食品に分かりやすい塩分表示をさせるよう、厚生労働省に申し入れをしています。
2.減塩目標値の1日6g未満の根拠を分かりやすくさせています。
3.食塩摂取量を評価するためのガイドラインを示しています。
4.減塩食のレシピを考案しています。
活動の結果は冊子にしたりメディアに発表したりしています。このような活動は、塩分の摂取が抑制するのに役立っているものと期待されています。
高血圧学会の定める高血圧の基準
高血圧は、以前は年齢プラス90ともいわれてましたが、これは現在では通用していません。年を取るほど基準が甘くなるということはなくなりましたので、より厳しくかつ正確になったものです。
最新の基準は、状態別により詳細に分類されるようになっています。それは以下の通りです。
・至適血圧=120㎜Hg未満かつ80㎜Hg未満
・正常血圧=130㎜Hg未満かつ85㎜Hg未満
・正常高値血圧=130~139㎜Hg又は85~89㎜Hg
・Ⅰ度高血圧=140~159㎜Hg又は90~99㎜Hg
・Ⅱ度高血圧=160~179㎜Hg又は100~109㎜Hg
・Ⅲ度高血圧=180㎜Hg以上又は110㎜Hg以上
・孤立性収縮期高血圧=140㎜Hg以上かつ90㎜Hg未満
高血圧は、要する治療の度合いに応じ、Ⅰ~Ⅲ度に分けられています。孤立性収縮期高血圧とは、収縮期血圧のみが高い場合です。高齢者に多くありがちで、拡張期血圧との差が大きくなるのでかなり危険です。
正常高値血圧は、高血圧を警戒すべき血圧です。正常血圧に該当しても、その他の要因等があれば心筋梗塞等を起こすことも珍しくありません。
やはり、目指すは至適血圧となります。この範囲であれば、高血圧合併症の発生率はかなり低くなっています。
至適血圧の人のリスクを基準にして、各段階でのリスクはどれくらい高いかが明らかになっています。正常高値であれば約1.7倍、Ⅰ度、Ⅱ度で約3.3倍、Ⅲ度になると約8.5倍と高くなっているのです。
高血圧学会によるガイドライン
高血圧の潜在患者は、日本人の3割とも4割ともいわれている国民病です。でも、そのほとんどは日常生活に何ら支障もなく普通に暮らしているものです。その間、少しずつ病魔は関係臓器に忍び寄っているのです。
高血圧はかなり進行して臓器を傷め始めても、なかなか痛くなったりはしてくれません。気が付いた時は手の施しようもなく、あえなく死亡することも高血圧の恐ろしいところです。
そうでなくても、半身不随の生活に陥ったりすることもあります。そんな高血圧については、高血圧学会がその治療のガイドラインを示しています。
最近、問題視されているのが夜間の血圧です。日中は血圧を測定しても異常なしと診断されていても夜間の血圧が高いというケースがあることが分かってきたのです。
該当者にありがちな症状に睡眠時無呼吸症候群があります。寝ている間に一時的に気道が塞がる病気です。
そこに、いろいろなストレス等が重なると、夜間血圧は高くなる傾向にあります。心当たりのある人は、夜間でも測定できる機器を揃えることが求められるようになっています。
高血圧は一般に、年齢とともに動脈硬化が進むとともに上昇していきます。それも食生活の状態の良くない人では、30代で既に高血圧に該当する人もいるようになりました。
現代人を悩ます塩分の多いバランスの崩れた食事等は動脈硬化を助長させ血管を狭く硬くさせるのです。そこに喫煙も重なると、一層、血圧は上がります。
酒もまた飲み過ぎると、交感神経が興奮して心臓も活発に働き血圧も上がります。このような食生活をしていれば、改めるようにすれば血圧は改善していくものです。
それでも改善しない場合は、病院で診察を受けることです。その人その症状に応じた降圧剤の処方もしてくれます。もしも、効き目がなければ別の薬も試してくれます。
しかし、何をしても効き目がないという場合もあります。それが、治療抵抗性高血圧です。これは専門の医師に診てもらうことで治療をしてもらえます。