高血圧症の治療

高血圧の治療には、降圧剤が使われます。降圧剤もいろいろと優れたものがあり、確かに降圧効果も認められます。これで血圧を下げることはできますが、薬は高血圧の本来の原因を取り除いてくれるものではありません

本来の原因とは、食事、運動、ストレス、飲酒、喫煙等の日常生活にあるのです。まさに生活習慣病の代表的存在なのです。

このような見直しは、他の高脂血症、肥満等の治療にもなります。これで、動脈硬化による合併症全体を抑えることにもなるのです。高血圧もレベル別に治療方法が分けられています。

それほどひどくなければ、このような生活習慣の改善だけで短期間で十分な効果も期待できます。ある程度、進んでいても降圧剤と併用しながら治療をしていくことにより、降圧剤から解放されることもあるのです。

具体的な改善項目は、以下の通りです。

食事
まずは、塩分摂取を控えることです。血中の塩分が増えると濃度を保つために水分も増え、血液が増えてしまいます。さらに血管を収縮させ、交感神経を刺激する作用もあります。

塩分の摂取量は人によって違いますが、日本人の平均は1日11g前後といわれています。これを半分にするのが理想的ですが、味付けを工夫して少しずつ減らしていくのが現実的です。

それには自分が現在、何を食べてどこでどれくらいの塩分を摂っているのかを掴んでおくことです。

食品毎に含まれている塩分には、大体の目安がありますから累計してみると分かりやすくなります。どこをどう削るか、プランを立ててみることから始めましょう。

ここでカロリーの高いものを削ると、肥満の解消にも役立ちます。次に、塩分の排出を促す食品を増やします。それはカリウムの多い野菜や果物になります。他にもカルシウム、マグネシウムにも効果がありますす。

運動
運動は肥満対策としても有効です。あまり頑張らない軽めの有酸素運動が良いのです。普段の生活の中で意識しながら継続することです。

飲酒、禁煙
酒はほどほどに飲むのが効果的です。喫煙は全くいけません。

高血圧の治療期間

高血圧は頭痛や腹痛のように薬を飲んだら3日で完治するということは、絶対にありません。薬で体質を変えなければ治らないくらいに捉えて、気長に取り組む姿勢が求められます

早くても数ヶ月かかりますから、数年単位の目線で取り組むことです。というのも、そもそも高血圧になるまでにそれ以上の年月がかかっているのです。

長年の食生活が積もり積もっての症状ですから、わずか数日で治ると思う方がどうかしています。

それでも現在では優れた降圧剤も誕生していますので、一時的には血圧も下がってくれます。それは対症療法的なものであり、高血圧自体は改善していないのです。

それには食生活の改善をするしかありません。そして新たな食生活を構築して維持できてから始めて治療が始まるといったものになるのです。

塩分を控えるというただそれだけでも結構な負担になることです。急に薄味になっても物足りない食事にしかならないものです。肥満の改善も高血圧には有効です。

それにしてもやはり数ヶ月くらいかけてゆっくりした方が、体のバランスも崩れません。喫煙者であれば、禁煙も効果があります。これも容易なことではありません。

軽い運動の習慣がなければ、それも身につけたいところです。いずれもすぐにできることではありません。少しずつチャレンジして無理なく自然な改善を長期に渡って続けるつもりでなくては厳しいでしょう。

高血圧の治療は何科?

職場などの定期健康診断で「高血圧、要治療」などと言われる人は多いでしょう。それで、どの病院の何科で診察すれば良いのかを知っている人は少ないでしょう。

内科の系統であるのは間違いなさそうですので、近所の病院の内科で診察してもらえば良いのです。

それが大きな病院になりますと、内科といってもいろいろと分類されています。循環器内科、腎臓内科、神経内科、内分泌代謝内科と分かれているのです。

この中で最も原因や症状に関係ありそうな内科に行くのが、理想的ではあります。高血圧は、腎臓、心臓、糖尿病の症状も起こしていたりします。

例えば頻尿も気になっているのであれば、腎臓内科に行くなどの選び方をするのです。狭心症などの心臓が心配であれば、循環器内科に行くべきでしょう。

しびれ、めまい、ふらつき等が気になる症状にあれば、神経内科という選択もあります。高血圧の原因となるカルシウムやホルモン等の代謝異常が疑わしければ、内分泌代謝内科も良いです。

ただどの内科にかかっても、診察内容に変わりはありません問診をして、血圧測定を始め、聴診、触診、、血液検査、尿検査、心電図、眼底検査等といったものです。

この結果によって、それぞれの医師が処方することになります。さらに精密検査が必要となれば、その専門科の専門医を紹介してくれることもあるでしょう。

精密検査の結果によっては、薬を服用することもあるでしょう。異常があっても食生活の改善で事足りると診断されれば、指導をしてくれます

病院での高血圧治療

高血圧は治療に時間がかかりますので、病院は近所の信頼できる医師を選びましょう。高血圧で病院にかかると、問診で聞かれることがあります。

決まった質問ですので、事前に用意しておきましょう。意外にいろいろと聞かれますので、用意していないと曖昧な返事をしてしまうものです。これだけでも診察は正確に速やかに進めてくれるようになります。

・以前に、血圧が高いと言われたことはありますか?あれば、その時の血圧はどれくらいでしたか?
・最近、血圧を測ったことはありますか?あればいつ頃でどれくらいでしたか?
・頭痛、めまい等どこか気になる症状はありますか?
・胸が痛くなったりすることはありませんか?あればどの程度のどのような痛みなのか?どのあたりでいつ頃どれくらい続くのか?
・脳血管疾患、心血管疾患、腎疾患、糖尿病等はありませんか?
・今までに大きな病気をしたことはありませんか?あれば病名といつ頃ですか?
・ご家族に高血圧や心血管疾患等の病気にかかった方はいませんか?
・今、何か薬を服用していますか?

以上の他に、食生活や酒、喫煙の状況やストレス等についても聞かれます。ポイントを押さえた分かりやすい返事ができるようにしておきましょう

その後、検査をしますが、血圧測定においては緊張するだけで普段より高くなるものです。早めに行くとかなるべくリラックスした服装をする等して本来の血圧が測定されるようにしましょう。

食事やコーヒー、喫煙等も、検査の直前には摂らないようにしておきます。血圧以外にも、血液検査、検尿、心電図、胸部レントゲン、眼底検査といろいろあります。

さらに診断の精度を高めるために、以下のような検査もあります。

・複数回の血圧測定(寝転んだ状態、座位、立った状態)
・頸動脈や甲状腺の触診聴診
・胸部や腹部の触診聴診
・四肢の触診

この結果により、必要に応じて脳や頸動脈のエコー、造影、MRI等の精密検査に移る場合もあるのです。

高血圧治療ガイドラインでの高リスク患者

日本高血圧学会では、高血圧治療ガイドラインを定めています。その中で、血圧とそれに絡む症状の度合いによる循環器系の疾患の起こしやすさを分類しています。

低、中、高の3段階にしていますが、このうち高リスクとはどのような場合を指しているのか気になるでしょう。それは概ね以下の通りです。

収縮期血圧180mmHgまたは拡張期血圧110mmHg以上の場合
次の(1)、(2)にともに該当する場合

(1)収縮期圧が140mmHgまたは拡張期血圧90mmHg以上
(2)以下のいずれかに該当する
糖尿病/脳出血/脳梗塞/無症候性脳血管障害/一過性脳虚血発作/左室肥大/狭心症/心筋梗塞/冠動脈再建手術/心不全/蛋白尿・アルブミン尿/低いeGFR/慢性肝臓病(CKD)・確立された腎疾患(糖尿病性腎症、腎不全など)/動脈硬化性プラーク/頸動脈内膜中膜壁厚/大血管疾患/末梢動脈疾患/高血圧性網膜症

該当しない場合でも、以下の項目の3つ以上に該当がある場合

65歳以上/脂質異常症/喫煙者/肥満(BMI=25以上)/メタボリックシンドローム/血縁家族に50歳未満で心血管病を発症した人がいる

上記の1つか2つに該当があって、収縮期血圧160mmHgまたは拡張期血圧100mmHg以上の場合
該当しない場合でも、以下の4つに全て該当する場合

 ①ウエスト周囲径:男性85cm以上、女性90cm以上)
 ②収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上
 ③高トリグリセライド血症150mg/dL以上または低HDLコレステロール血症40mg/dL未満)
 ④空腹時血糖110mg/dL以上

高血圧治療ガイドラインによる降圧目標

高血圧症の基準は、単純に収縮期血圧または拡張期血圧が基準値を超えているかどうかで判断されています。

病院で血圧を測定し、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上であれば高血圧とされます。ですが、境界値付近であれば誤差もありますので、自宅で数回にわたり血圧を測定してみましょう

朝の起床後と夜の就寝前の1日2回、2回ずつ測定して平均を取ります。自宅で測定した血圧では高血圧の基準が、病院での基準値より5mmHg低くなります。測定環境の違いによる誤差がこれくらいあるのです。

この基準を超えていても条件によっては、適正とされる場合もあれば、低くても高血圧とされる場合もあります。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインには、適正とされる血圧の範囲をより詳しく定められています。

これは、単純に年齢により自然発生的な高血圧を考慮したものだけではありません。合併症があれば、合併症の種類によってもその範囲が違ってくるのです。具体的には以下の通りです。

・若年、中年、前期高齢者:収縮期血圧140mmHgかつ拡張期血圧90mmHg未満   
・後期高齢者:収縮期血圧150mmHgかつ拡張期血圧90mmHg未満 
・糖尿病患者:収縮期血圧130mmHgかつ拡張期血圧80mmHg未満
・CKD患者(尿たんぱく陽性患者):収縮期血圧130mmHgかつ拡張期血圧80mmHg未満
・脳血管障害患者、冠動脈疾患患者:収縮期血圧140mmHgかつ拡張期血圧90mmHg未満

高血圧症患者のガイドラインでの血圧目標

高血圧治療ガイドラインは、日本人の1/3が患者といわれている高血圧症について、その医療に関わる医師の拠りどころになっています。

高血圧の診断基準は140mmHg/90mmHgであるのに、血圧の目標は130mmHg/85mmHg未満とされていたものです。これでは整合性が取れていないこともあり、改正された最新の目標数値が示されています。

それによると、後期高齢者患者であれば、150mmHg/90mmHg未満と標準よりやや高めにされてあります。後期高齢者患者は体のどこか臓器が弱っていることが多いので、無理をさせないためです。

臓器に負担をかけないよう少しずつ改善をしながら、最終目標としては若い人と同じ140mmHg/90mmHg未満とするものです。若年、中年、前期高齢者患者であれば、140mmHg/90mmHg未満にされています。

糖尿病患者や尿たんぱく陽性の慢性腎臓病(CKD)患者であれば、130mmHg/80mmHg未満とされています。これらは脳卒中を引き起こす病気です。脳卒中の発症率が高い日本では、血圧の目標値をより低く厳しめに設定しているのです。

このように高血圧症患者の年齢による目標値の他にも目標値が定められている場合があります。これが複数に渡って該当している場合の目標値は、高い方の数値を基準にします。

例えば、糖尿病や尿たんぱく陽性の人でも、後期高齢者であれば目標値は150mmHg/90mmHg未満のままとしているのです。

高血圧治療ガイドラインの2014年改正点

日本高血圧学会は、2014年に5年ぶりとなる高血圧治療ガイドラインの改正を行いました。大きな改正点は、家庭血圧の概念を重視したことです。

病院で測定した血圧値を基準に高血圧の診断をされても、自宅で測定すれば高血圧の基準をかなり下回る人も多かったのです。

一般に病院で測定した血圧は、自宅で測定した血圧より5mmHg高いといわれてます。もしも健康診断などで高血圧とされた場合に、自宅でこの方法で再測定をします。

収縮期血圧135mmHgまたは拡張期血圧85mmHg以上であれば、高血圧と確定するようになりました。

自宅で測定した数値を高血圧の診断に加味させるようにしてより正確な数値を把握しようとしたのです。自宅で測定する場合は、測定の方法や回数によりばらつきが出ますので、具体的な方法についても言及しています。

それによると、測定のタイミングは起床後排尿後朝食前と就寝前(夕食飲酒入浴直後を避ける)の2回となっています。それぞれ2回ずつ測定し、その平均を測定値とするようになりました。

測定は自分で行いますから、姿勢にも気を付けましょう。背もたれのある椅子にゆったり座って、十分息を整えてから測定します。あぐらをかいてはいけません。それだけでも測定値がかなり変動するのです。

さらに、病院では測定できない夜間の血圧にも言及しています。血圧は一日の間で上下変動するものとの認識を深めているのです。通常、血圧は夜間には下がるものとされていました。

それが睡眠中でも血圧が下がらなかったり、逆に血圧の上がる人もいることが分かったのです。

このように夜間の血圧が高いと高血圧による合併症の発生率が、通常の高血圧の場合よりも高いことがわかりました。夜間に血圧が高いと、十分な睡眠が取れているかの問題も出てきます。

それによりストレス等の諸症状もありえます。そこで家庭で就寝中でも簡単に血圧を測定できる血圧計も販売されるようになっています。これを積極的に利用しましょう。

高血圧を治療しない人

高血圧がどれだけ危険なのか、医師からいくら説明されても治療に応じない人もいます。このような人には、その人なりの理由があるのです。例えば、以下のようなものです。

・医師は病気を大げさに説明して、患者を増やそうとしているものなのだ。
・もしも治療が必要になれば、それは自分で感じられるはずだ。
・治療はしたいが、とても忙しくて通院できるような暇がない。
・高血圧の薬は、飲み始めると途中で止められないから、なるべく食生活で改善したい。
・高血圧といっても治療を受けるほどではない。現状なら食生活の改善で下げられる自信がある。
・薬はどんなものでも副作用が必ずあるから飲まないようにしている。
・高血圧の親がいるが、長生きしている。自分もそうなるはずと思っている。
・危険といわれても心配していたらきりがない。何かもっとそれらしい症状が出れば治療する。
・自分で普段から血圧は測定している範囲では、異常を感じられない。
・苦労して治療して長生きするより、早く死んでも楽しく行きたい。

このような人もいるのです。人の価値観人生観はそれぞれで、全てが正しいということもありませんが全てを否定することもありません。ただ、治療すれば良い結果が伴うのははっきりしています

循環器の機能は改善し、健康に長生きできるのは疑いようのない事実なのです。治療しなかったばかりに、無駄に重篤な病気になり苦しみながら早く死んでしまう人がいるのは目に見えています。

高血圧の治療を否定するような人がいるのは、全く持って残念なことではあります。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です